【セミ種類解説:ヒグラシ】夕暮れ時の風流な美声!哀愁漂う声が魅力のヒグラシの生態や特徴について解説!

セミ種類解説
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夏の夕暮れ時に森から聞こえる「カナカナ…」の声。その美声と物悲しさから多くの文学作品や映像作品にも登場し、名前や鳴き声を知っているという人は多いはずです。そんなヒグラシはちょっとかわいそうなセミなんです。何がかわいそうなのか?ヒグラシの特徴や生態について徹底解説します!

ミソミソ

セミ好き歴20年!
写真や映像を学び、セミの魅力を発信することを目標にしています。

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ヒグラシの基本情報

オス
メス

ヒグラシ
Tanna japonensis
セミ亜科>ヒグラシ族>ヒグラシ属

見た目の特徴

全長:42〜50mm
中型のセミです。頭部から胸部にかけては黒色の体に緑色や赤褐色の紋が入り、この紋は黒色部を失うほどに発達することもあります。こうした個体は淡色型として区別されていますが、紋の個体差は連続的で数々のバリエーションがあります。逆に中胸背の紋が消失してほとんどが黒色になる黒化型も知られています。淡色型はたまに見かけることがありますが黒化型はかなり珍しい印象です。オスの腹部は赤褐色で紙風船状に柔らかく、細長い形をしています。腹弁は小さく逆三角形で、腹弁の下の腹部に左右1対の小さな突起があるのが特徴です。一方メスの腹部は同じく赤褐色ですが短く、産卵管は突出しないタイプです。翅は透明で前翅に複数の暗色紋が現れます。セミ全種に共通する形態的特徴についてはこの記事をご覧ください!

頭部〜胸部の斑紋の個体差(どちらもオス)
黒色部をほとんど失った淡色型のオス
休息するメス

前述のように、ヒグラシの頭部〜胸部にかけての斑紋は黒色部がほとんど消失する淡色型から逆に斑紋が消失する黒化型まで連続的な変化が見られます。この変化はヒグラシのどの産地でも見られ、同じ場所で黒色部の多い個体と淡色型に近い個体が同時に見られることも珍しくありません。ただ、標高の高い山間部に住むヒグラシは黒色部が発達している傾向にあるのです。確かにエゾゼミなんかを探して標高の高い場所を歩いている時に見かけるヒグラシは胸部の黒色が発達している個体が多いなと感じます。

分布

北海道南部〜本州、四国、九州、奄美大島(種子島や屋久島などには分布しない)
沖縄県を除く日本に広く分布しますが九州本土以南の島嶼部には奄美大島とトカラ列島宝島を除き生息しません。八重山諸島には近縁のイシガキヒグラシが生息しています。日本固有のセミで海外には分布しませんが、台湾にはソウザンヒグラシという近縁種が生息しています。

時期

6月末〜9月上旬
物悲しい鳴き声からなのか晩夏のセミと勘違いされることが多いですが、実際にはニイニイゼミと同等かやや遅いくらいでアブラゼミやクマゼミなど他の種類のセミと比べると出現は早く初夏のセミです。7月下旬〜8月上旬が最盛期で、その後も9月までは鳴き声が聞けることが多いです。奄美大島ではさらに出現が2週間ほど早く6月中旬で、最盛期も7月上旬〜中旬です。

鳴き声

「カナカナカナカナ…」と透き通った声で鳴きます。1回の鳴き声は5秒程度で終了し、しばらくしたら再び鳴きます。周辺を歩き回りながら鳴くことがあり、数回同じ場所で鳴いたら鳴き移りをします。また、「カナカナ」と鳴く前に「クーーークーーー」と弱く発音していることがあります。早朝と夕方の薄暗い時間を中心に合唱し、特に早朝は合唱の規模が大きく夜明け前に30分程度大合唱をします。夕方は合唱規模は早朝よりは小さいものの、その分鳴く時間が長くなります。個体数が多く、薄暗い天候の場合は日中にも鳴くことがあります。奄美大島産のヒグラシは通常のヒグラシとは鳴き声が異なり、金属音のような声になります。

ヒグラシ鳴き声(鳴く前の弱い「クーー」の音に注目)

生息環境

平地から山地にかけて広く生息しますが、森林性のセミのためある程度まとまった樹木のある環境でしか見られません。そのため都市部での生息地は限られますが、ごく稀に森林から鳴き移りした個体が市街地で見られることもあるようです。杉などの針葉樹林や広葉樹を好み、さまざまな木の幹にとまります。暗い環境を好むからか、あまり木の枝先では見かけません。走光性が強く街灯などによく集まります。鳴いているオスは意外にも鈍感で簡単に近づけますが、日中は敏感です。

木の低所で鳴くオス
街灯に飛来したオス

羽化・抜け殻・産卵

羽化は他のセミ同様に夕方から夜間にかけて行われますが、稀に例外として日中に羽化することもあります。羽化場所は地面から数十cmから数mの葉や枝、幹上と様々で、抜け殻も同様の場所で多く見つかります。抜け殻には光沢があります。産卵は木の樹皮や枯れ枝に行われ、卵は産み付けられたその年の秋には孵化します。セミの羽化について詳しくまとめた記事がりますのでぜひご覧ください!

抜け殻
羽化直後に街灯に飛来したメス

鳴かない日中は何してる?

ヒグラシは薄暗い早朝や夕方に活発に活動し、それ以外の時間は基本的には鳴きません。(例外として曇りなど薄暗い天候や個体数が多い場合に少数が日中に鳴くことがありますが…)鳴かない日中は木の低所や根元付近で休息したり、樹液を吸って食事をしたりしています。物陰に隠れている場合もありますが、日中のヒグラシは思いのほか敏感で人間が近づくと飛び出して逃げようとすることがあります。個体数が多い場所だと日中に数分歩くと数匹ヒグラシが飛び出してきた、なんて経験もあります。隠れていたはずなのにかえって簡単に見つかってしまうのです。夕方や早朝の活発な時間帯は鳴いているところにかなり接近できるほど鈍感?なのに、時間帯で性格が変わるのが面白い種類ですね。

日中、飛び出して松の幹にとまったメス
夕方、鳴くオス(至近距離で撮影)

ヒグラシと寄生虫

セミには数種類、寄生虫が知られています。セミタカラダニにようにセミの種類問わず寄生する昆虫も存在しますが、セミの寄生虫は主にヒグラシに寄生する種類が多いです。セミヤドリガは主としてヒグラシに寄生し、ニクバエ類の中にはヒグラシに特化して寄生するヒグラシヤチニクバエが存在します。

セミヤドリガ Epipomponia nawai

成虫は小型の黒色の蛾で、樹皮に産み付けられた卵から孵化した体長約1mmの1齢幼虫がセミの脚をつたって終齢幼虫(5齢幼虫)になるまでセミの腹部に寄生して体液を吸収します。終齢以前の幼虫は薄い桃色で、終齢幼虫は白色の蝋状物質の綿毛を身に纏い、体長10mm程度まで成長します。その後、幼虫は寄主のセミを離れ、木の幹や下草で繭を作り、蛹になり10日ほどで羽化します。単為生殖を行い、羽化当日から産卵が可能です。ほとんど全ての個体がメスですが極めて稀にオスが発見されたこともあります。寄生されたセミは複数匹に寄生されると多少は飛翔などに影響したり、外敵から発見されやすくなったりなどのデメリットがありますが、直接的に生死に関わることはありません。日本では東北地方を除く本州、四国、九州に分布し、沖縄南西諸島では確認されていません。また、標高の高い山地では見つかっていません。

セミヤドリガの終齢幼虫(※画像はミンミンゼミ)
ヒグラシヤチニクバエ Angiometopa cicadina

成虫がセミの体内に直接1齢幼虫を産み、幼虫が寄生します。セミヤドリガとは異なり腹部の内側に寄生するのが特徴で、通常は1〜3個体程度が寄生しますが、それより多い場合もあります。幼虫はオスのセミに寄生する場合は発音筋など、メスのセミに寄生する場合は卵巣を食べ、寄生されたオスのセミは発音に異常をきたし、最終的には一切鳴くことができなくなります。オスが寄生されることが多いようです。寄生したハエの幼虫は終齢幼虫(3齢)まで成長したのちに腹部から脱出します。寄生されたセミはハエの幼虫が脱出した後も生存した事例はあるようですが、死んでしまうことも多いようです。ヒグラシヤチニクバエ以外にもセミに寄生するハエはアブラゼミやミンミンゼミに寄生する種類やエゾゼミなドン行き性する種類など数種類知られています。

ヒグラシヤチニクバエに寄生されたヒグラシのオス
腹部でウジ虫が蠢いている様子

このようにヒグラシは他の生物に寄生されることが他の種類のセミと比べて多いような気がします。生態や生息環境などが関連しているのか、あるいは体の構造が関連しているのか?
ヒグラシが少しかわいそうだなと思うのは私だけでしょうか…?

まとめ

・緑や赤褐色の紋が入る中型のセミ
・オスの腹部は紙風船状に柔らかくメスの産卵管は突出しない
日本固有のセミで北海道南部〜九州と奄美大島に分布
初夏のセミでニイニイゼミと同時期くらいに出現する
・夕方と早朝に大合唱するが、早朝の方が短時間で大規模
・「カナカナ」と鳴く前に小声で「クーー」と発音することがある
・森林性のセミでまとまった樹木のある環境を好む
走光性がかなり強い
・卵はに孵化する
・日中は木の低所でじっとしていて敏感
セミヤドリガヒグラシヤチニクバエに寄生されやすい

以上、ヒグラシについての解説でした!
鳴き声で有名なヒグラシですが、その生態や寄生虫に関することなど面白い情報がたくさんあります!
この記事を読んでわからないことやもっと知りたいことがあればコメントまでどうぞ!

参考文献

・林正美 税所康正『日本産セミ科図鑑』誠文堂新光社 2011

・税所康正『セミハンドブック』文一総合出版 2019

・中尾舜一『セミの自然誌ー鳴き声に聞く種分化のドラマー』中公新書 1990

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