
多くの方がセミと言われて最初に想像するのはこのアブラゼミではないでしょうか?人間の生活圏に最も溶け込んだ超普通種のアブラゼミの生態や特徴について徹底解説します。稀にみられる変異型のセアカ型や赤斑型についても解説!面白い変異型のアブラゼミを探してみよう!
アブラゼミの基本情報

アブラゼミ
Graptopsaltria nigrofuscata
セミ亜科>アブラゼミ族>アブラゼミ属
見た目の特徴
全長:53〜58mm
やや大型のセミでオスよりもメスの方が若干大きい傾向にあります。体は無光沢の黒色で金色の小さな毛が生えていますが、何らかの要因で一部または全てが抜け落ちてしまうことがあります。(後で触れますが、アブラゼミにはごく稀に体の大部分が赤くなるセアカ型という変異型が存在するため、絶対に体が黒色というわけではありません)中胸背〜腹部にかけては多くが白粉でおおわれていて、翅は全体が不透明の茶褐色です。翅が不透明なため、オスとメスの形態的差はそこまで明らかではありませんが、当然ながら翅の下の腹部の腹弁や産卵管などが雌雄で異なります。メスの産卵管は突き出しません。翅全体が不透明のセミは世界的にも非常に珍しく、日本でも本種とリュウキュウアブラゼミの2種しかいません。翅脈の色は個体差がありますが青緑色〜黄褐色で、美しいグラデーションになっている個体も多く見かけます。
セミ全種に共通する形態的特徴についてはこの記事をご覧ください!
(アブラゼミの翅脈の色に関して、筆者の私の所感ですが、羽化直後や新鮮なうちは緑色でその後成熟するにつれて黄色く変化しているような気がします。詳しく調べていないので誤りの可能性が高く、ただの妄言と思っていただければ結構なのですが発生初期のアブラゼミは翅脈が緑色の個体が多く、8月下旬ごろの最盛期過ぎには逆に翅脈が黄色い個体に多く出会うような感覚があります。例外として羽化時点で翅脈が黄色い個体に出会ったことがあるので何とも言えませんが…)


分布
北海道・道央〜本州、四国、九州〜屋久島、朝鮮半島
奄美以南の南西諸島や北海道の一部地域を除きほぼ日本全国に生息する日本のセミの代表種です。日本以外にも朝鮮半島から中国にかけて生息しています。
時期
7月中旬〜9月下旬
地域によって若干の差はありますが、おおむね8月上旬〜中旬ごろに最盛期を迎えます。
鳴き声
「ジージリジリ…」と抑揚のある声で40秒ほど鳴いた後、そのまま止まらずに「ジッ…ジッ…」という間奏を挟んで再び鳴く場合と、一度「ジージリジリ…」と鳴いた後に鳴き移りする場合があります。アブラゼミという種名はこの油で何か揚げ物を揚げるような鳴き声から付けられました。午後から夕方にかけてよく活動しその時間帯に鳴く傾向にありますが、個体数の多い最盛期にはほぼ1日中鳴きます。また付近に一定以上の明るさの街灯があれば夜間でも鳴くことがあります。
生息環境
山地や森林から市街地・都市部にかけてどこにでも生息し、特に市街地に多いセミです。街中の街路樹やちょっとした公園緑地などに多くみられ、都市部に最も適応したセミで日常の中で多く姿を見かけます。特定の木に偏ることはなく多種多様な樹種に生息しますが、サクラやケヤキなどの広葉樹を好む傾向にあります。木の幹や枝、電柱や家の壁などいろんな場所にとまり、個体数が多ければ低所でもよく姿を見られます。果樹園にも多く、リンゴやナシの害虫として扱われることもあります。


羽化・抜け殻・産卵
羽化は他のセミ同様に夕方から夜間にかけて行われますが、稀に例外として日中に羽化することもあります。羽化場所は地面から数十cmから数mの葉や枝、幹上と様々で、抜け殻も同様の場所で多く見つかります。幼虫や抜け殻は一部地域で同所的に生息するミンミンゼミと似ていて区別が難しいですが、触覚の節や幼虫の場合は体の色などで識別可能です。幼虫期間は約5年と推定されていて、卵は冬を越したのち梅雨ごろに孵化します。樹皮や枯れ枝に産卵します。
セミの羽化について詳しくまとめた記事があります!ぜひご覧ください〜






その他の生態:走光性
アブラゼミには強い正の走光性(そうこうせい)があります。走光性とは多くの昆虫が本能的に持つ習性の一つで、光の刺激に反応して移動することを指し、光に向かって移動することを「正の走光性」、逆に光を嫌って移動することを「負の走光性」と言います。多くの昆虫は正の走光性を持ち、カブトムシや蛾などが街灯に集まるのはこの性質によるものです。一方、ゴキブリやミミズなどは負の走光性を持ちます。セミはどの種類も正の走光性を持っていて、街灯などの灯火に集まりますが、その習性の強さは種類によって多少異なります。アブラゼミはセミの中でもやや強い走光性があり、午後〜夕方の日が暮れるまで活発に活動することから街灯によく集まります。街灯に飛来したオスの個体はそのまま夜間も鳴き続けることがあります。

セミの基本的な生態については以下の記事でまとめていますのでぜひご覧ください!
アブラゼミの珍しい変異型
至る所でその姿を見かけるアブラゼミ。普通のセミで何の珍しさも感じないかもしれませんが、アブラゼミの中にも通常のアブラゼミとは異なる特殊な色彩や斑紋を持つ変異型と呼ばれる特殊な個体が存在します。有名なものは2種類でそれぞれセアカ型と赤斑型です。順に解説します。
セアカ型
アブラゼミのセアカ型はその名前の通り背中が赤くなる変異型のことで、中胸背が黒ではなく赤色になるほか、体が全体的に赤〜赤褐色を帯びます。別名セアカアブラゼミと呼ばれ、特定の地域特有のものではなく全国的に低確率で発見されています。帯びる赤みは連続的で、中胸背が完全に真っ赤になる個体や、やや赤みを帯びる程度の個体などさまざまな姿が知られています。



赤斑型
セアカ型ほど派手ではありませんが、アブラゼミには他にも赤斑型と呼ばれる変異型があります。体の色は基本型と同じですが、中胸背に2つ〜4つの黄褐色または赤褐色の斑点のような紋が並ぶもので、こちらも西日本を中心に全国的に発見されている変異型です。関東地方でももちろん確認されています。斑点の位置は個体によって異なりさまざまです。


その他
セアカ型や赤斑型以外にも個体変異は存在します。前述の翅脈の色もそのうちの一つです。また、複眼の色にも個体差があり、赤色の個体から茶色の個体まで連続的に見られます。かなりレアな変異型として美しい青色の複眼のアブラゼミも見つかっていて、たかが普通種のアブラゼミですが非常に奥が深い種類となっています。
まとめ
・アブラゼミは世界的に珍しい翅全体が不透明のセミ
・奄美以南と北海道の一部地域を除くほぼ日本全国に分布
・真夏の8月上旬〜中旬にかけて最盛期を迎える
・揚げ物をするときのような音で主に午後〜夕方にかけて活発に鳴く
・羽化は他のセミ同様、夜間に行われる
・強い走光性があり、街灯によく飛来する
・街灯付近では夜間も鳴く
・セアカ型や赤斑型などの珍しい変異型が存在する
以上、アブラゼミについての解説でした!超身近なセミだけど面白い生態や変異型がある奥深いセミです。皆さんもこの夏、セアカ型や赤斑型を探してみては?
この記事を読んでわからないことやもっと知りたいことがあればコメントまでどうぞ!面白い変異型を見つけたらぜひ教えてくださいね〜
参考文献
・林正美 税所康正『日本産セミ科図鑑』誠文堂新光社 2011
・税所康正『セミハンドブック』文一総合出版 2019
・中尾舜一『セミの自然誌ー鳴き声に聞く種分化のドラマー』中公新書 1990
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